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2025/11/13

野球グローブの歴史と使われ方

野球グローブの歴史と使われ方

〜職人の技と選手の魂が宿る革の相棒〜

グローブとボール

グローブの誕生前 ― 素手で戦った野球選手たち

野球が生まれた19世紀半ば、アメリカの選手たちは誰一人としてグローブをはめていませんでした。
当時のボールは今より柔らかく、守備よりも打撃が中心のスポーツでした。
そのため「素手でボールを取るのが当たり前」だったのです。

しかし、競技の発展とともにボールは硬く、スピードも増していきます。
手の骨折や打撲が相次ぎ、特に内野手は指を痛める選手が続出しました。
この時期、選手の中には「手の保護具」を試し始める者が現れますが、
当時の観客やチームメイトからは「臆病者」とからかわれ、
グローブを使うことは勇気のいる行為でした。

最初のグローブ ― チャールズ・ウェイトの挑戦(1870年代)

1870年代、セントルイス・ブラウンズの一塁手チャールズ・ウェイト(Charles Waitt)が、
手を守るために片手に革手袋を装着してプレーしました。
この試みこそが、野球グローブの原点とされています。

当初、彼は「男らしくない」と嘲笑されましたが、
その実用性が認められ、やがて他の選手たちも真似をするようになります。

当時のグローブは、手のひらを覆う普通の革手袋に近く、
ボールをつかむための補助具というよりもケガ防止具の意味合いが強かったのです。

捕球具への進化 ― ウェブとポケットの誕生(1900年~1950年代)

19世紀末から20世紀初頭にかけて、グローブは急速に進化していきます。

■ 1900年代初期:ウェブ(Web)の誕生

親指と人差し指の間に「網状の革」を張る構造が登場します。
これにより、ボールがこぼれにくくなり、確実なキャッチが可能になりました。
この改良が「守備の革新」と呼ばれる大きな転機でした。

■ 1920年代:形の大型化とポケットの登場

グローブは手の形を補助するだけでなく、
ボールを“包み込む”ような構造へと進化します。
ボールを収めるためのポケット(くぼみ)が形成され、
「捕る」というより「つかむ」感覚に近づきました。

■ 1950年代:ポジション別グローブの確立

やがてポジションごとに特徴の異なるグローブが生まれます。
内野用は小型で浅め、外野用は深く大きく、捕手用は円形で厚い。
これにより、守備スタイルがより専門的に分化していきました。

野球選手

日本への伝来と発展 ― 職人が生んだ国産グローブ

日本に野球が伝わったのは明治時代、1870年代後半。
アメリカから来日した教師たちが生徒に野球を教えたのが始まりでした。
このとき、同時に持ち込まれたのが革のグローブです。

■ 戦前期:輸入品の時代

初期の日本ではグローブはすべて輸入品。
高価で一般の学生や社会人が持つことは難しく、
多くの選手は素手、あるいは簡易的な布手袋でプレーしていました。

■ 戦後期:国産化と職人の登場

第二次世界大戦後、野球の人気が再燃。
これにより国内メーカーが続々とグローブ製造を開始します。
代表的なのが以下のメーカーです。

  • ミズノ(Mizuno):大阪で美津濃商店として創業。高品質なスポーツ用品を開発。

  • 久保田運動具店(現・久保田スラッガー):手作業での型作りにこだわり、「手になじむグラブ」を追求。

  • ZETT(ゼット)SSKハタケヤマなどが続々登場。

日本の職人たちは、欧米製のグローブを模倣するだけでなく、
日本人の手の大きさやプレースタイルに合うよう改良を重ね、
独自の製法と品質で世界に通用するグローブを作り出していきました。

素材と構造 ― 革の命が宿る工芸品

グローブは一見シンプルな道具に見えますが、
実は30〜40枚もの革パーツが組み合わさってできています。
その製造工程は、まるで伝統工芸品のように精密です。

■ 主な革の種類

種類

特徴

ステアハイド(成牛革)

最も一般的。耐久性とコシのバランスが良い。高校・社会人・プロ選手にも広く使用。

キップレザー(子牛革)

柔らかく軽量。フィット感が高く、プロ仕様グラブに多い。

ジャパンステア

国産牛革。きめ細かく、なじみが良い。

鹿革・豚革など

特殊モデルや軽量化目的で使用。

さらに、近年では人工皮革(シンセティックレザー)も普及しています。
耐久性・防水性に優れ、少年野球や練習用に最適ですが、
天然皮革のように“手になじむ”感覚はやはり本革に及びません。

■ 構造の主要部位

  • ウェブ(Web):親指と人差し指の間の「網」。形状により捕球感が大きく変わる。

  • ポケット(Pocket):ボールを収めるくぼみ。深さや柔らかさが命。

  • ヒンジ(Hinge):グローブの開閉を支える関節部。自然な動きを生む。

  • レース(Lace):革ひも。全パーツを縫い合わせる生命線。緩みは型崩れの原因。

  • 指袋(Finger Stall):指を入れる内部構造。快適性と操作性を左右する。

    野球道具

ポジション別グローブの特徴と役割

グローブは、ポジションごとの動きに合わせて形状が最適化されています。

ポジション

特徴と目的

投手用

握りを隠すために指が長めで閉じやすい。ウェブが密閉型で、打者に握りを見せない設計。

内野手用

小型・軽量・浅いポケット。すぐに握って素早く送球できるように設計。

外野手用

大きくて深いポケット。打球を確実にキャッチできるよう、リーチが長い。

捕手用(キャッチャーミット)

厚く丸い形状で衝撃吸収性重視。強い球を受けるために補強が多い。

一塁手用(ファーストミット)

横長で、送球を拾いやすい。捕球面が広いのが特徴。

グローブを“育てる”文化 ― ならしとメンテナンス

新品のグローブは硬く、すぐに使えるものではありません。
選手たちは時間をかけて「ならし(慣らし)」を行い、自分の手に合った形へ育てます。

■ ならしの方法

  1. ボールを握って叩く
     専用ハンマーで叩いてポケットを形成。

  2. グラブオイルを塗る
     乾燥防止と柔軟性の保持のため。塗りすぎは禁物。

  3. 形を整えて固定
     ボールを挟み、バンドで締めて保管。

  4. 繰り返し使用する
     最終的には使い込むことが最高の“ならし”となる。

時間をかけて手になじんだグローブは、
まるで手の延長のような存在になります。
プロ野球選手の中には、10年以上同じグローブを愛用する者もいます。

少年野球クロスプレー

職人の手仕事 ― 一つのグローブに込められた情熱

日本のグローブ職人は、今でも多くの工程を手作業で行います。
革の裁断、縫製、レース通し、仕上げに至るまで、
ひとつのグローブが完成するまでに20〜30時間以上を要することもあります。

職人は「革の表情」を読み取り、どの部分をどのパーツに使うかを見極める。
それはまさに革との対話です。

久保田スラッガーやミズノの上級モデルでは、
熟練の職人が一人で全行程を手掛ける“1職人1グローブ制”を採用しています。
完成したグローブには、その職人のサインや刻印が刻まれることもあります。

現代のグローブ文化 ― 個性とサステナビリティ

■ カスタムオーダーの時代

近年は、プロ選手だけでなく一般ユーザーにも
自分だけのオーダーグラブ」が人気です。
革の色、ステッチ、ラベル、刺繍、ウェブ形状まで自由に選べ、
まさに「世界に一つだけの相棒」を作ることができます。

■ グローブと環境意識

SDGsの流れを受け、近年は廃棄グローブの再生にも注目が集まっています。
使えなくなったグローブをリメイクして財布やキーケースに再利用するなど、
“第二の命”を与える取り組みが広がっています。

また、環境負荷の少ない植物性タンニンなめし革を使用するメーカーも増えています。

グローブが語るもの ― 道具を超えた絆

グローブは単なるスポーツ用具ではありません。
選手の汗と努力、そして試合の記憶を刻み込んだ相棒です。

プロ野球選手の多くが「このグローブと共に戦ってきた」と語り、
引退の際にはグローブを抱えて涙する光景も珍しくありません。

また、少年野球においては、初めてのグローブが
“野球との出会い”そのものになることも多いです。
親から子へ受け継がれるグローブは、まさに家族の歴史を語る革ともいえるでしょう。

野球道具その弐

まとめ 〜 革に宿る伝統と未来

野球グローブの歴史は、およそ150年。
素手の時代から始まり、技術革新を重ね、
いまや職人の魂が宿る「芸術品」にまで昇華しました。

時代

進化のポイント

19世紀

素手 → 皮手袋の始まり(チャールズ・ウェイト)

1900年代初期

ウェブ付きグローブ登場

1920〜1950年代

ポケット形成、ポジション別グラブの誕生

戦後

日本製グローブの発展と職人文化

現代

カスタム・SDGs・デザインの多様化

グローブは「ボールをつかむための道具」でありながら、
同時に「選手の心を支える革の相棒」です。

革が呼吸し、時間とともに味わいを増すように、
プレイヤーとともに成長し、歴史を刻み続ける
それが、野球グローブという存在の真の魅力なのです。

店舗情報:革のことなら何でも!

革研究所 札幌店

住所:札幌市北区北34条西3丁目1-7北34条ビル1F

電話番号:011-600-6858

営業時間:平日10~19時

修理対応エリア:北海道 札幌市全域エリア

革研究所HP:https://sapporo-kawa-kenkyujyo.com/

 

革修理対応製品

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店舗情報

革研究所 札幌店

代表者 城台 悦史
所在地 札幌市北区北34条西3丁目1-7北34条ビル1F
TEL 011-600-6858

対応エリア
北海道 札幌市全域エリア

当店の革修理は革の事を知り尽くした熟練職人が一点一点丁寧に修理・補修いたします。思い出の有る大切な革製品を安心してお任せください。また、ブランド品(VUITTON・CHANEL・GUCCI等)の革修理経験も豊富です。革のキズやスレの補修はお任せください。革修理の御見積やお問合せはもちろん無料です。

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